せっかく役員報酬を支給するのであれば、しっかり節税になるように、対応したいですよね。
ここでは、社会保険料負担、役員貸付金のリスク、留保金課税、退職金の有効活用、配偶者控除との関係など、中小企業経営者が押さえるべき5つの注意点をわかりやすく解説します。法人と個人を合わせたトータルの税負担を減らすために、役員報酬設計で失敗しないコツを紹介します。
①社会保険料
オーナー社長の場合、役員報酬として受け取るか配当として受け取るかによって社会保険料の負担にも差が出ます。役員報酬は給与所得として扱われるため、健康保険や厚生年金といった社会保険料の対象にもなります。会社負担分と個人負担分を合計すると給与額の約30%前後にもなるため、高額な役員報酬を支給すると税金だけでなく社会保険料の負担も増大します。一方、配当金は給与ではないため社会保険料の対象には含まれません。そのため、社会保険料負担を抑える観点から、あえて役員報酬を抑制して配当で受け取るという手法も考えられます。ただし前述のとおり配当には法人段階の税負担が伴うため、社会保険料を節約できても税負担総額では大きな差が出ない場合もあります。
②役員貸付金
なお、会社の利益を個人で使いたいからといって、役員貸付金(会社から経営者個人への貸付金)という形で資金を引き出す方法は慎重に検討する必要があります。実質的に返済意思のない貸付は、税務上役員賞与として課税されるリスクがあります。安易に貸付金の形で資金を流出させることは避け、適切な方法で利益を移転しましょう。
③特定同族会社の留保金課税
さらに、法人に利益を残し続けることには注意すべき制度があります。それが特定同族会社の留保金課税(法人税法上の留保金課税制度)です。これは、少人数の株主(主にオーナー一族等)で会社を所有している場合に、一定額を超える内部留保に対して追加の法人税が課される仕組みです。
具体的には、課税所得から一定の控除額(一般に年2,000万円)や支払済みの役員報酬・配当額を差し引いた残額(課税留保金額)に対し、段階的に追加課税が行われます。課税留保金額のうち3,000万円までは10%、3,000万円超1億円までは15%、1億円超部分は20%の税率が適用されます。
例えば、特定同族会社で税引前利益5億円を全額留保した場合、通常の法人税等とは別に約7,400万円もの留保金課税(3,000万×10%+7,000万×15%+4億円×20%)が課される可能性があります。
ただし、この制度は相当程度の利益蓄積がある場合に適用されるものです。中小企業では役員報酬の支給や設備投資などで利益を社内に溜め込みすぎないよう調整することで、通常はこの追加課税を回避しています。
とはいえ、将来的に事業承継等でオーナーが退職金を受け取る計画で意図的に利益を貯めている場合などは、適用基準に該当しないか専門家と確認しつつ進める必要があります。
④役員退職金
なお、オーナー経営者が引退時に受け取る役員退職金は、税務上は個人で「退職所得」という区分になり、大変優遇されています。退職所得には勤続年数に応じた大きな控除(退職所得控除)があり、控除後の金額も1/2だけが課税対象となるため、同額を給与で受け取る場合に比べて格段に税負担が軽減されます。
このため、現役時代には必要以上に役員報酬を増やしすぎず法人内に利益を蓄え、引退時に退職金として支給することで、法人税は適時に納めつつ最終的に個人へ有利な形で資金を移転させるという方法も取られます。
ただし退職金の支給には、在職中の功績や最終報酬額等に照らして社会通念上相当と認められる水準である必要があり、あまりに高額だと税務上否認されるリスクもあります(一般に、最終報酬月額×在任年数×功績倍率(2〜3程度)といった算定が社会通念上相当とされる水準の目安です)。適正な範囲内で計画的に実施することが大切です。
⑤配偶者控除・役員報酬
また、家族への所得分散に関連して配偶者控除の問題もあります。経営者の配偶者に収入がない場合、経営者個人は所得控除(配偶者控除)を受けることができます。しかし、法人から配偶者に給与を支払い一定以上の所得を得させると、その配偶者控除が使えなくなる点にも留意が必要です。
一方で、配偶者に支払った給与自体は法人の損金となり税負担を減らせます。
例えば、配偶者に年間120万円の給与を支給した場合、法人税を約36万円軽減できますが、経営者個人の所得税・住民税では配偶者控除(最大38万円相当の控除)が受けられなくなり、約10万円程度税額が増加する可能性があります。
したがって、配偶者への給与支給額は、配偶者控除の喪失による個人税増と法人税減少のバランスを見て決める必要があります。一般に、配偶者にも十分な労働実態があり相応の給与を支払う場合には、法人で経費化するメリットの方が大きくなりやすいですが、形式的に給与を出すだけでは節税にならない点に注意しましょう。
以上のように、法人の利益を個人に移転するか留保するかは、税率や社会保険、将来の資金需要など様々な観点から判断する必要があります。単純に「税金がもったいないから全て経費にしよう」と考えるのではなく、法人と個人をトータルで見た最適なバランスを検討することが重要です。この後の章では、法人税の仕組みや具体的な節税策について詳しく解説し、最終的な利益配分の判断材料を提供します。